揚州商人読書会

仲良し三人組の読書会報です。

第1回 揚州商人読書会 2015年4月9日(木)

書名 『失われた夜の歴史』 At Day's Close: Night in Times Past

著者名 ロジャー・イーカーチ A. Roger Ekirch

訳者名 樋口幸子・片柳佐智子・三宅真砂子

発行年月日 2015年2月15日

出版社 インターシフト

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購入書店 E:東京堂書店 H:ジュンク堂書店大宮髙島屋店 A:東京堂書店

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 この度は、揚州商人読書会のブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 この読書会は、我々3人が仕事終りに、水道橋にある揚州商人スーラータンメンを食べにいったことがきっかけで始まりました。ビールと餃子で雑談しているときに、「なんかこれ、おもろそうやから、迷ったけど買ってもうたわ」と言って、Eが鞄からつまみ上げたのが、今回取り上げる本です。3月頃だったかと思います。そして、「読書会でもやろか」との提案に、皆がきゅんきゅんした勢いもあり、月に1回のイベントとして現在も続いております。

 閑話休題。早速第1回読書会での発言をまとめます。私Aが書記を務めましたが、概要を書くのは不得手ですので、箇条書きでの文章ご寛恕ください。

 

 ・『宗教と魔術の衰退』と『サミュエル・ピープスの日記』の引用が多い(H)。特にピープスの言い回しが面白い。

六月の晩についてピープスは、「暗い晩なので、打ち合わせ通りバグウェル宅へアンダルした(歩いていった)。そこで少々ふざけたりベサンド(キス)の後、暗い中を二階の彼らのカマ(ベッド)へ行き、ベッドの上でファセロ・ラ・グラン・コサした(大いに情事を楽しんだ)」と書いてある。p.288

 ピープスさんは、日記の中で、50人以上の女性と性行為があったと記している。名前や場所等も熱心に記録していることから、1万2000人を買春した元中学校長につながる系譜を確認にする。「真っ暗になるまで野原を行ったり来たりした」とあるが、薄暗がりの中では「彼女にベサル(キス)する機会はなし」と漏らしている。マニラはいまなお暗いのだろうか、それとも日本にはもはや暗い場所などないのだろうか。

 ・深夜の強盗のエピソードが不可解である(H)。

ジュネーヴの押し込み犯は、貪欲さに駆られて、二人の人物が眠っていた寝室から、一度ならず二度まで、それもわずか二時間しか間をおかずに物を盗んだ。しかも、一度目の時に、目を覚ました被害者に追いかけられていたにもかかわらずだ。p.69

 夜も眠れぬ人たちのために、例えばイギリスでは、昼間と夜間の強盗を区別して、それぞれ独立した犯罪として扱うようになったとのこと。夜の出来事が法律を作り出していたともいえる。

 ・事例が多い(E)。学術書ではないため、読み物としてリーダビリティは高い。文芸棚にも置けるのでは? なぜ人は夜が怖いのか、先天的な理由が知りたい。エロ描写が物足りない。

 サミュエル・スミスなる腕のいい靴下職人が、暗い中、寝ている間に、女友達からペニスをナイフで襲われた。女友達は「彼と数年間付き合ってきて、何度も結婚の約束を交わしたのに、だまされてばかりだった」と主張した。スミスは「大量の血」を失い「苦痛が増してきて」、はじめて「何がいけなかったかを理解した」という。

 ・夜働く人々への焦点。「ナイトマン or ナハトマイスター(汲み取り屋)」p.248。人間の排泄や遺体処分は夜の仕事であり、夜警の職に就いた下層階級の人々は、「まさに人間のくず」p130、とも評されていた。

 ・その一方で、夜にふさわしい仕事についても言及されている。例えば夜、涼しい時間に行う畑仕事、p.262。さらには、雇われ労働者にとって、夜とは自分のために使うことができる時間でもあった。月の灯りのもとで、私用地を耕し自分自身の畑を持つことを夢みたり、家の中ではこっそりと糸紡ぎをする者もいた。

 ・徐々に進んでいた暗さから明るさの世界への移り変わりは、パリ(1667年)、アムステルダム(1669年)、ベルリン(1682年)、ロンドン(1683年)、ウィーン(1688年)と公共照明の普及でひろまっていく、p117。こうした人工的な照明によって、法秩序による監視(夜警)が容易になり、人々は「私的な世界」(フロイト)を捨て、全て曝け出すのと引き換えに、権力に助けてもらう社会へと移行していった。

 ・夜と心の状態について。(A)

重要なのは、夜そのものが本質的に、昼間の生活における束縛、つまり陽気さや遊び心を抑制している数え切れないほどの規則や義務からの解放を意味していたということだ。夜とは、何よりもまず、心の状態だった。p.266

 ・夜が好きなEは、頭が冴えてくる、気持ちが暗くなりすぎないように、何も考えず、楽しいことをする。女性を抱きたい。朝が好きなHにとって、夜は終わってしまう感じがする、日曜日の夕方6時現象、五月晴れが好き、冬は日が短いから嫌いなど。

 ・話は、下ネタをなぜ夜にいいやすいのか、へと移っていく。単に人が周りにいない、オープンではない、隠された状態だから。その後、人はなぜカーテンを閉め、動物はなぜ茂みの暗がりに隠れて性交渉をするのか、という難問に入る。

 ・Eの考えでは、外敵から守るため、タイミングとして夜が選ばれたとのこと。夜=セックスなる特権性を脱構築し、AV的な明るさで、カーテンを開いてバックから突く、そこに背徳感、社会的制裁を突き抜ける可能性があると述べる。また、出産、性交渉は、潮の満ち引き、すなわち「月に打たれた(ムーンストラック)、p.32」状態とも関係しているのではないか。

 ・Hは、隠すことと暗闇は同義ではないという「H式セックス理論」を展開する。

 また、電気を消した上で、目隠しをする性癖もあるということで、「暗闇の二重性」も論点としてあがる。スイカ割り、だるまさんがころんだ、かくれんぼ、ハンカチ落としなど振り返ると、私たちは幼い頃から闇を作って遊んでいた。本書は、夜に対する見方が変わる内容ではない。私たちが夜とどう向き合ってきたか、自己の夜の歴史を再考する本として読むことをおすすめする。

 

  ・関連書等として上げられたものは下記の通り。

 1、『陰影礼賛』、谷崎潤一郎。東洋と西洋の夜の使い方。

  2、「ミラボー橋」、アポリネール

日も暮れよ、鐘も鳴れ

月日は流れ、わたしは残る  堀口大學

 3、『夜の光に追われて』、津島佑子。諦念の哲学。

 4、『夜のピクニック』、恩田陸。思春期時代の夜遊び。

 5、『源氏物語』、紫式部。夜這いの歴史。視覚の制限により、におい、音、歌(愛の言葉)で判断、p.286。

 6、『停電の夜に』、ジュンパ・ラヒリ。隠し事を打ち明けあう。

 7、「死のフーガ」、パウル・ツェラン

あけがたの黒いミルク僕らはそれを夕方に飲む

僕らはそれを昼に朝に飲む僕らはそれを夜中に飲む

僕らは飲むそしてまた飲む

 8、「経験」、堀川正美。

明日があるとおもえなければ

子供ら夜になっても遊びつづけろ!

 9、文科系トークラジオLife「夜遊びのゆくえ」、2013/02/24

 10、ヨルタモリ

 11、都バス24時間化、猪瀬元都知事。

  以上、駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

 今後は、既に終了しました、第2回、3回の模様を更新していきたいと思います。遅くなって忘れないうちに、書くことができるように頑張ります。

 どうぞよろしくお願い致します。